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2021/05/04

なにもかもが巨大な短波放送施設「KDDI八俣送信所」に潜入

 茨城県古河市にあるKDDI八俣(やまた)送信所は、日本で唯一海外向けに短波放送を発射している送信所。1941年の放送開始から今年で80周年を迎えるのを記念して5月に記念式典が催される。

 今回は、この式典に先駆けて同送信所の内部が報道陣に特別に公開された。あまり馴染みのない「短波放送」についてや「国際短波放送」の意義、「八俣送信所」の内部や現在の携帯電話の電波につながる内容などを取り上げる。

建屋正面。昭和初期の建物で歴史の長さがうかがえる
三笠宮殿下の植樹

「短波放送」と「国際短波放送」

インフラグループリーダーの松井 一浩氏

 短波は、AMラジオ放送などで使用される「中波」とFMラジオ放送などで使用される「超短波」の間に位置づけられる周波数帯の電波の総称で、3MHz~30MHzの間の電波のことを呼ぶ。

 短波放送は、この短波の周波数帯で行われている放送のことで、日本では国内向け放送の「ラジオNIKKEI」と国際放送の「NHKワールド・ラジオ日本」が短波で放送されている。

短波と短波放送

 「八俣送信所」では、このうち「NHKワールド・ラジオ日本」を放送事業者のNHKから送信業務をKDDIが受託し放送している。

 「国際短波放送」を放送する意義として、「中継無しで世界中に迅速に情報を伝えられる」ことにあるという。

 短波の特性として、地球を高度200~500kmで覆っている「電離層」と陸地や海面で反射しながら地球のさまざまな場所に伝搬する性質がある。

 国際放送は「衛星放送」や「インターネット」などでも行われているが、衛星放送では送信所から人工衛星、衛星アンテナを通じてユーザーのテレビに、インターネットでは中継機器や海底ケーブル、現地の中継機器などのインフラを介してユーザーのもとに届けられる。

 短波放送の場合、日本の送信所から直接ユーザーのラジオまで情報を伝えられるため、世界中どこにいても「現地の情勢やインフラなどに依存せず」すぐに情報を伝えられる。

 実際に、1990年の湾岸戦争時には、現地に残された邦人向けに有事放送を実施。戦後に帰国した邦人から「ラジオが唯一の情報源だった」との声があったという。

 ちなみに、電離層は季節によって厚さが異なるため、同じ短波の周波数でも短波の特性である「電離層での反射」を活かすため、季節によって放送している周波数は変わるという。

八俣送信所について

 八俣送信所は、東京ディズニーリゾートとほぼ同じ広さの約100万平方メートルの広大な敷地に、全世界に向けて短波放送を行うためのアンテナが設置されている。

 茨城県古河市が送信所に選ばれた理由は、広大な敷地が確保できた以外にも雪や台風、塩害など自然災害のリスクが低いことなどが挙げられるという。

 八俣送信所から海外放送の電波が発射されたのは、前述の通り1941年で、当時は国際電気通信が運用していた。戦後GHQの指令で設備設計製造部門と分離され、同送信所の保全運用は、旧逓信省の管轄となった。

 この後、電気通信省、日本電信電話公社(電電公社)、国際電信電話(KDD)と移り変わり、現在はKDDIが運用している。

送信機は巨大な真空管を使用

 送信機は2021年現在7台設置されている。予備機を含めて300kW送信機を5台、100kW送信機を2台用意し、全世界に高品質の電波を送信しているという。

 送信機には、約70kgある巨大な真空管が利用されている。八俣送信所マネージャーの堀江 孝氏によると、「大出力の送信機では、真空管のほうが安定して送信できる」とし、およそ2年ごとに交換されるという。送信周波数の変更は、コイルが内蔵された装置を物理的に移動させて変更するしくみで、まるで1つ1つの部品が巨大化された送信機という印象をもった。

送信機内部と周波数変更
送信機内部
逆U字型の部分で周波数を調整している
周波数を変更しているところ
逆U字型部分の左端から右端まで使うことで短波帯の周波数をカバーできている
周波数などの操作盤
真空管と取替作業
真空管の取替作業は2人がかりで行う
真空管。重さは約70kgある

 送信機自体の寿命は使い方にもよるが20~30年程度とのこと。ただし、予備機だったり使用頻度が少ない場合は30年以上稼働できるものもある。

 筆者は、昨今の送信機はデジタル化されて仕組みは分かりづらいようになっているが、この送信機ではもう少し勉強していれば、原理を詳しく学べそうだと感じた。

送信機内部に工具を残してしまうとショートや動作不良の原因となるため、何がないかすぐに分かるように置き場をつくっている
送信機の扉内側は銅板で覆われている

 送信機や回線設備、受電設備や実際の電波の発射状況などは、24時間365日スタッフが監視しており、異常発生時はすぐに指令・対応ができるようにしている。モニタリング装置の一部は、汎用機がなくスタッフが独自に機材を組んで構成しているものもあるという。

監視室
監視盤
世界地図も掲示されている
カスタム構成したという計測機器
電力も監視している

巨大なアンテナ群

 送信機などが格納された建物を出た著者は、周りを巨大なアンテナ群に囲まれていたことに気づいた。

 四方八方に点在している送信アンテナ。実際に電波が発射される空中線は全部で18式。カーテンのように横長に張り巡らされた「カーテンアンテナ」が15式、四角錐を倒したようにケーブルを張った「LPアンテナ」を3式配置。角度や出力などを調整しながら25方向に電波を発射している。

 「カーテンアンテナ」は電波の周波数が低い(低域)放送用のものが幅100m×高さ70m、周波数が高い(高域)放送用のものが幅50m×高さ35mのものが使用され、主に遠距離向けに電波を発射している。アンテナの中心には反射スクリーンがはられ、スクリーンを挟むようにダイポールアンテナが配置されている。アンテナから出力された電波をスクリーンが反射することで、前方に指向性をもたせた電波を発射できる。

 「LPアンテナ」は、幅40m×高さ45m×奥行60mのアンテナで中距離地域に広範囲の電波を発射している。カーテンアンテナとは異なり、短波帯の周波数をすべて送信できるが、アンテナの強度の兼ね合いで最高100kW程度の送信出力に限定される。

左の低いアンテナは高周波数帯用、右が低周波数帯用。オーストラリア大陸方面に電波を発射するアンテナ群
建屋屋上から見るアンテナ群
送信機から各アンテナに配線されている
見える光景すべてがアンテナ

 点検中のアンテナに近づいてみると、写真のフレームに収まりきらないくらいの巨大なアンテナ。

点検中のようす
アンテナ全景。近すぎて収まりきらないくらい大きい
高周波数帯用アンテナ。周波数が高いほうが波長が短いので、アンテナの長さが短い
低周波数帯用アンテナ。周波数が低いほうが波長が長いので、アンテナの長さが長い

 テレビ放送やFMラジオ放送、身近な携帯電話の基地局アンテナとは比較にならない巨大な構造物だが、これは「短波のアンテナ」だから。

 一般的に電波を送受信するアンテナは、波長の長さに合わせる形で大きさが変化する。

 たとえば、AMラジオ放送の送信所は巨大な鉄塔とそれを支えるワイヤーロープで構成される支柱式鉄塔で、広大な敷地と巨大なアンテナが必要になる。それに比べて高い周波数(=波長が短い)を使うFMラジオ放送やテレビ放送では、アンテナが小型化され、高い場所に据え付けられるぐらい(短波やAMに比べると)小さいアンテナで放送できている。東京タワーやスカイツリーなどは送信所となっているが、実際のアンテナ部は先端部に取り付けられており、タワー全体がアンテナとはなっていない。

 携帯電話の基地局アンテナも、ビルの屋上に取り付けられるぐらい小型化されている。また、同じ携帯電話の基地局アンテナでも、LTE用と比較して5G通信で使用される3.7GHz帯やミリ波帯のほうが小さいアンテナが利用されている。

 話を八俣送信所に戻すと、短波用のアンテナまでは送信機から同軸ケーブル、4線のケーブルなどに変換されて接続される。同軸ケーブルも、我々が使っているケーブルの何十倍もの太さのケーブルを使用しており、何もかもが巨大化された空間が広がっていた。

点検のようす。周波数を変更した場合など定期的に擬似空中線を用いて(実際に電波を発射しない)点検する
変電装置。トランスから放送している音がかすかに聞こえる。まさに「しゃべるトランス」
同軸ケーブル。何本か束ねているわけではなくそれぞれ1本の同軸ケーブル
送信機からの信号をどのアンテナに接続するかを制御する機器
点検中のアンテナには信号を送らないように掲示
送信所からのアンテナは、途中で変換されながら各地に配線される
左からインフラグループリーダーの松井 一浩氏、所長の齊藤 稔充氏、マネージャーの堀江 孝氏
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